夢は未来に色褪せない

日々の思い出

雑木林の革靴

私が小学生の頃、下校をともにする同級生は4人いた。
同じ地区には住んでいるものの、帰る方向が一緒というだけで家同士の距離は近くなかった。一番近い同級生の家に行くにも、鬱蒼とした山を抜け、子供の足で30分近くかかった。

ある下校中のことである。
いつも通り道草に道草を重ねる中で、「ちょっと山の中に入ってみよう」などということになった。子どもの考える事は信じられない。

通学路から道を外れ、突如山の中に分け入り、落ち葉が敷き詰められた雑木林の中を探検しはじめた。
この探検にはもちろん目的がないので、誰かがなんとなく「そろそろ帰る?」と言った時が帰りどきだった。それかたまたま山を抜け、舗装された道に出るまでが探検だった。

夕方の雑木林の中はかなり暗く、みんな少なからず心細くなっていたと思う。私はものすごく心細かった。早く家に帰って茶の間でNHK教育が見たいと思っていた。
じゃあ探検するなって話だが、子どもに理屈は通じない。

そんななか事件は起こった。
雑木林の中に突如革靴が落ちていたのである。
「これ……」
誰かがぽつりと口にし、皆が一斉に口を閉ざした。
その瞬間、私は肝が冷える感覚を味わった。
『今日未明、山奥で成人男性の遺体が発見されました。発見者は地元の小学生で、当局によるとーー』
という謎のアナウンスが瞬時に脳内に再生された。
雑木林の中に人の手が生えていたらどうしよう、もしかして今私の立ってる場所に死体が埋まってるかもしれないーー暗い妄想はどこまでも広がる。

おそらく皆の頭の中にも似たようなワードが並べられたに違いない。
「か、帰ろうか」と誰かが呟くや否や、そそくさと今来たであろう方角に早足で歩き始めた。
友達の手前、走り出したい気持ちを抑え全力で早歩きした。いわば競歩である。


今日まで、あの辺りで遺体が発見されたという話は聞かない。
けれどあんな雑木林に踏み入る人間は私たちだけだったろうから、発見されなくて当たり前だ。
ただ革靴が捨てられていただけに違いない、絶対そうだと信じることにします。

この一件で雑木林への道草には懲りたかと思いきや、私たちは小学校を卒業するまでありとあらゆる道草をし続けた。学ばない子どもである。まぁゆとり世代だから仕方ない。こう言っとけばなんでも許される。

探検と称し雑木林に踏み入り、捨てられていた革靴ひとつにびびって逃げ出す根性は、今もほとんど変わっていない気がする。

そして今でも夕方家でイーテレを見るのが大好きだ。