夢は未来に色褪せない

日々の思い出

昔のこと

隣の家に住むおじさんは一人暮らしだ。
もう80を超えているから「おじさん」という年齢でもないが、子どもの頃からの癖でおじさんと呼んでいる。最近ボヤ騒ぎを起こした。
彼には娘が二人いて、二人ともすでに結婚し、家を離れている。私は娘のお子さんたち(おじさんのお孫さん)と歳が近く、娘さんが子供を連れて隣の家に帰省していた時、よく一緒に遊んだ。

いなかの風習は、ときにとても面倒くさく感じる。
集落内はもちろん皆が顔見知りで、知っていなくてもいいようなプライベートな情報が筒抜けになる。
村八分、てきなものもちゃんと存在してる。

私は長らく、おじさんの妻について考えたことがなかった。
おじさんに娘がいることはずっと知っていた。けれど私の記憶の中に奥さんの存在はなかった。
だから誰にも聞いたことがなかった。誰も教えてはくれなかった。

大人になった私はふと、その存在が気になり祖母に聞いてみた。祖母は声を潜めて「働きものでとてもいい人だった。器量はそこまで良くなかったけれどいい人だった。子どもたちがまだ小学生の頃、農薬を飲んで死んでしまった。病んで体調を崩していて、それから夫が浮気していた。かわいそうだよ」と言った。

私にとって隣のおじさんは、会えば挨拶をする良い人で、どこにでもいる近所のおじさんだった。
そのときまでは確かにそうだった。

祖母の話を聞いて以来、私にとって隣のおじさんは、良い人ではなくなってしまったのかもしれない。
昔のことは分からないし、それぞれの胸の内なんてもっと分からない。
祖母はご近所の悪口が好きだ。私は祖母が大好きだ。
次隣のおじさんに会ったとき、私はその顔を何も言わずにじっと見つめてしまうだろう。